
制作時85歳という高齢にもかかわらず、ベルイマンはこの作品を最新のHD技術で撮影するという大胆な試みを行なっている。とくに純白の空間でチェロを弾くカーリンが次第に遠ざかっていく幻想的なシーンは、驚嘆すべき抽象的なイメージの広がりが感じられ、この不世出の巨匠の絶えざる実験精神に心打たれるのである。
ベルイマンのデビュー作『危機』は、生みの親と育ての親がエゴイズムを剥き出しにして小さな娘を奪い合い、彼女を不幸に追いやるという作品だったが、図らずも遺言とも言うべき最後の作品『サラバンド』でも、同じモチーフを取り上げたことになる。
しかし、うららかな秋の日差しのような柔らかいトーンで始まったこの映画は、やはり、女性たちへの限りなき讃嘆の想いを託した感動的なエンディングで締め括られる。深夜、言い知れない不安に駆られ呆然と立ち尽くすヨハンを、マリアンはベッドに受け入れるのである。頑迷ですぐに絶望しペシミスティックな世界に自閉してしまいがちな男たちを、寛容に包み込むリヴ・ウルマンの名演には、ただ圧倒されるほかない。そこには、ベルイマンならではの生きることへの限りない肯定の意志、微かな希望と至福に向かうイメージが垣間見える。『サラバンド』は、真の女性映画の名匠の白鳥の歌にふさわしい、集大成ともいえる傑作である。

(C) SVT 2006. All Rights Reserved.