
私たち演技者は、考えうる限り最高の観客である彼に向かって演技をしたわけです。私たちの才能を理解し、信じてくれるベルイマン監督に、私たちはもっといいものを見せようと張り切るわけです。ところが『サラバンド』では彼はカメラの傍にいられませんでした。広い部屋の反対側で私たちに背を向けてモニターを見つめていたのです。何か「いつもと違う」と思いました。私は最後のシーンは、彼の目の前で彼に見られながら演じたかった。でも、そうはいかなかったのです。でも監督が「よし、カメラ」と言ったときに不思議なことが起こりました。部屋の向こう側にいたイングマールが、私の方を見て、その瞬間彼と私の間で二人にしか見えない<のろし>が上がったんです。彼は何も言いませんでしたし、他の誰もその<のろし>を見ませんでしたけど、まるでアメリカ先住民が煙で合図するように、私たちは理解しあったんです。彼は私の考えを理解して、私も彼を理解していた。素晴らしい祝福を受けたような気分でした。撮影の最終日には、皆それが最後の日だとわかっていたのでパーティーをしてお祝いをしようと計画していました。この映画は長回しが多いので、たった28日で撮り終えたんですよ。さあ、今日が最終日だ、というのにベルイマン監督は呆然と突っ立っていました。そして不意に「私は帰るよ。パーティーには出ない」と言うと、おめでとう、とも言わず、皆をねぎらうでもなく、「では、さよなら。」と言って帰ってしまったんです。ちょっと変な感じでした。その二日後、彼は自宅があるフォール島に帰っていきました。それから今日までの1年半の間、彼は一度もフォール島を離れていないんです。あれっきりになってしまったんです。だからあの撮影最終日はますます奇妙な体験になりました。彼自信もそう思っているに違いありませんが、役者にも、技術者たちにも、何か間が抜けたというか…。あんなに多くのことを私たちに与えてくれた人が、行ってしまったという実感を覚えました。
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